酉の市

 十一月の酉の日に行われる鷲神社の祭礼で、一の酉、二の酉とあり、三 の酉まである年は火事が多いと言い伝えられる。鷲大明神は開運の神で、 江戸っ子に「お酉さま」と今も親しまれている。江戸では葛西花又村の鷲 大明神を祖とするが、御府内からは遠かったので、浅草・吉原裏手の、新 鳥越鷲神社への参詣が増えた。そのためこの日だけは吉原の門も開放され 、一般の通行を許した。  熊手は福や金をかき集め、みやげ物の“八つ頭”は子だくさん、“粟も ち”は黄色いことからそれが黄金に通じるとされ、縁起物となった。江戸 では遊女屋、茶屋、料理屋、船宿、芝居などにかかわる業種の人々が多く 買い求めた。作品中で熊手をかつぐのは商家の小僧さん。お仕着せの縞の 着物に紺の股引き、背中には縁起物のお土産の入った風呂敷を背負ってい る。内儀はお召納戸色の地に、菊花紋散らしの表着。外出のため着物を帯 の下にたくしこみ、帯締めで押さえている。