七夕

 七月六日の朝から江戸の空には七夕飾りの笹竹が、屋根の上に高々とか かげられ、風にいっせいに揺れる景色は壮観である。七夕は古くは七月十 五日を中心としたお盆の行事だったものが、仏教の伝来によって変化し、 今に伝わる星空のランデヴーとなった。

 手習いの子どもたちは、「字がうまくなりますように」と願いを込めつ つ和歌を書いたり、娘たちは「お針や習い事が上達しますように」などと 願って短冊に書いて、笹竹に吊るす。色紙を網状に切った吹き流しや、短 冊も江戸後期には四角の他に、すいか、大福帳、そろばん、徳利に盃など いろいろな形や色のものを売りにきた。また、現代では見られなくなった が、ほうずきを数珠のようにつなげたのも飾った。

 作品の娘はかすり縞の単衣に、笹にふくら雀文様のえんじ色の帯を、引 き抜きに結んでいる。前髪に結わえた紅の小切れが、娘らしさをかもしだ す結綿と呼ばれる髪形が、かわいらしい。膝の前には「小倉山百人一首」 がおいてあり、この中から和歌を選んで短冊にしたためるのだろう。