洗たく

「菖蒲」の文字はすでに万葉集に登場しているが、これを「あやめぐさ」 と読んだ。だがこれは現代の「アヤメ」ではなく「ショウブ」をさしてい るのでややこしい。ショウブはサトイモ科、アヤメ、ハナショウブ、カキ ツバタはアヤメ科で、ハナショウブもアヤメから作られたという。 

菖蒲は奈良時代に中国から渡来し、長寿を象徴する意味をもつ植物とさ れていた。現代でも端午の節句には、軒端(のきば)に菖蒲と蓬(よもぎ)をさ げたり、湯にいれたりするが、これは邪気を払うものとして、チベットか ら中国を経由して伝播(でんぱ)したといわれている。ところがカキツバタは 「杜若」とか「燕子花」と書くが、これは全くの当て字で、日本の固有種 であるため、信仰や風習とは無関係で、ただひたすら、のびやかに美しく 咲いている。

 
さて作品は、喜多川歌麿の浮世絵をもとにした。男物の下駄に腰をおろし、 洗たくするかたわらの桶に花菖蒲がみごとに咲いている。薄柿色の格子縞の 単衣(ひとえ)に、黒地の絣の前垂れをまわしかけている。姉さんかぶりの手 拭は鳴海絞り(なるみしぼり)の襞取り蜘蛛(ひだどりぐも)の柄で、当時、大流行した。