もちつき




 江戸の町では師走の十三日ころからは大掃除にかかり、年神様をお迎えする正月のしたくに入る。大店ではこの頃にはすでにもちつきに入るが、一般的には二十六日頃がもちつきの最盛期で、町中から杵の音がする。鳶や人足などが四,五人一組となって、かまど、せいろ、うすに杵、薪も持参してのもちつきとなる。注文した家では門口で、杵の音高らかにもちをつかせるのは、ちょっと自慢。こうやってついたもちは親戚や地主などに、干魚や塩魚などを添えて配る。この作品の大量のもちはそのためのものである。

 この作品は、豊国描くところの『甲子春黄金の若餅』となんともめでたい題がついている。六枚組みの浮世絵だが、登場人物は当代の人気役者たち。それぞれに役者の名が書かれ、似顔になっているのだから、めでたさとともに、その売れ行きが知れようというものだ。