小鍋たて
こなべたて

                


   

 池波正太郎の小説によく登場するのが「小鍋たて」。一人か二人で、こじんまりとつっつく鍋で、コンロや火鉢に小ぶりの鍋をかけ、出汁をはってそこに、二,三種類のものを入れ、煮ながら食べる。材料は旬のものがいい。大根、青菜、茄子などの野菜、あさり、蛤、こばしら・・・・、油揚げや豆腐は、年中いける。素材の組み合わせの妙を楽しむ。熱燗が恋しい季節のお楽しみは鴨で、「鴨ねぎ」とよくいうが、芹と炒りつけると実にうまい。

 この作品では小さな鉄鍋に、大根と蛤を煮ているのを想定した。だが、慈姑(くわい)を煮ていると画の説明にはあって、そういえば江戸の食材には慈姑がたくさん登場するのを思い出した。

「なまにへなうちになくなる小鍋たて」などと川柳にもあるように、待ちきれずに、生煮えなのを食べてしまう。江戸っ子は気がせくのだろう。