こはだ鮨売り・亀吉
こはだずしうり・かめきち

   

正月二日にやってくる江戸の物売りの中に、こはだの鮨売りがいる。日ごろは吉原の遊郭を売り歩く。

「坊主だまして還俗させて こはだの鮨でも売らせたい」という俗謡にもあるほどで、「すぅ〜、こはだのす〜ぃ」の売り声は、日ごろ鍛錬された佳いのどの坊主を還俗させてまで、と思わせるほど。この鮨売りの多くは、鮨問屋から派遣されるようで、顔もさることながら、その粋でいなせな格好に、女たちはうっとり。作品の亀吉は、その名にちなんで亀のはんてんを着ているしゃれ者。

 江戸で「こはだ」は、上方では「このしろ」。成長過程で呼び名の変わる出世魚だが、武家は、このしろは此城に通じ、城を焼くという意味合いから、食べなかったようだが、煮ても焼いても食えぬこはだを鮨に仕立てると、あっさりした江戸っ子好みに変身し、幕末には大流行した。