江戸浮世 | 秋も深まるにつれ熱燗が恋しくなる。つぶし島田の内儀が、桑の木目も 美しい長火鉢で燗をしている。利休鼠色地の落ち葉小紋の袷に、黒地に 空色と銀糸の雲形牡丹文様の帯といった渋い色合いの装いに、髪に挿し た赤玉の銀差しが艶を添える。 江戸時代も後期にはいると家で燗をするには、現代のようにやかんなど のお湯に徳利をつけるが、煮売り酒屋などでは銅製の「ちろり」で燗をつけ、 そのまま客に出す。ここでは酒の肴も出し、客は思い思いに酒を楽しむ。 江戸中期まで酒はもっぱら「下り酒」とよばれる上方の酒に頼っていたが、 文化3年(1806年)に酒造りが自由化されると、江戸でも酒造りが盛んにな っていった。とはいえ下り酒の人気は衰えることはなく、年間4斗樽で、100 万樽を超えるほど江戸に運ばれていた。だが下り酒はやはり高級品で、江 戸の庶民はもっぱら地酒の「隅田川」や「宮戸川」などの銘柄を楽しんでい た。 |
江戸浮世
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*注◇煮売り酒屋・・・今でいう居酒屋。 |