初卯
はつう
 1月最初の卯の日が初卯。この日は、菅原道真をまつる亀戸天神への参 詣者もおびただしく、火防(ひぶせ)の守り札をもらうことができる。ま た門前では、商売繁盛の縁起物である繭玉を売る。わらづとにはいってい るのは、みやげ用の〈業平しじみ〉で、亀戸近くの業平橋界隈で採れたし じみは名物。「色男あずまに貝の名を残し」と有名。たらいの中に泳ぐ鯉 は、吉原近くの宮戸川と呼ばれる隅田川でとれたものだ。口の端が青いこ とから〈紫鯉〉と呼ばれた。だから江戸の鯉のぼりは、口の横に藍色を少 し入れ、紫鯉であることを表現している。  作品の右の娘は、山の字文様の表着に、昼夜仕立ての半四郎鹿の子の帯 を引き結びにし、いかにも若い娘らしい髪形にしている。中央の女性は、 よろけ縞の地に八つ藤丸の裾模様、下がり藤の紋付きで、博多献上と太縞 に花唐草の昼夜帯。左の女性は、曙染めに燕と滝の江戸褄の表着、鳳凰の 丸と花の丸文様の鯨帯をひとつ結びにしている。
*注 ◇繭玉(まゆだま)・・・地方によっては正月または小正月にも飾ることもある。柳などの枝に、小さくした餅をさし、ときに短冊などを下 げたりもする。
◇吉原・・・江戸の公娼の遊廓。
◇昼夜仕立て・・・鯨帯とも。本来は白と黒が表裏になっているので鯨帯とか昼夜帯と呼んだが、後年は表裏が異なる布でできている帯の総称 となった。
◇献上・・・博多献上のこと。
◇曙染め・・・グラデーションになっている染。