初がつお

『目には青葉 山ほととぎす 初かつお』  初がつおの大ブームは安永・天明期(1772〜1788年)である。当時は魚 屋よりも早く品川沖に舟を出し、三浦・房総方面から、かつおを満載した 足の速い〈押送舟(おしょくりぶね)〉を見つけ、1尾1両で買い求め、 初がつお喰と称して見栄をはる。1尾に5両も出すものがでる始末。江戸 っ子は、とかく初物好きだが、「勝魚」とも書くこの魚は、勝負事や喧嘩 好きの江戸っ子気質に、大いにもてはやされたのである。文政期(1818〜 1829)頃には、この異常なブームもおさまって、庶民にも手軽に買えるよ うになった。  作品中央の女性は、髪を“じれった”に結い、絞りの浴衣、眉を落とし 鉄漿(おはぐろ)をしているのは、この家の主婦か。酒樽の前には縮みの 単衣に、半四郎鹿の子に松皮菱と菊花文様の鯨帯の娘。左には、縞に青海 波などが入った表着、花入り亀甲つなぎの帯で、いかにも江戸の女らしく 渋好みにまとめている。