羽 根 つ き




  正月の町に、羽根をつく音と女たちの笑い声が聞こえてくる。髪を「結綿」に結った左の娘は、源氏香文様の晴れ着に、絞りと花唐草の昼夜帯。中央には髪を「天神」に結い、二筋格子の半纏を着た女が、落ちてくる羽を待ち構えている。右側の娘は縞に菊入り燭江(しょっこう )つなぎという凝った晴れ着だ。帯は万字文様と水がき色の昼夜仕立て。さて、羽根を追って裾が乱れるのもご愛嬌の正月ならではの風景だ。

  羽根つきは600年以上昔から、宮中で男女の区別なく行われた遊びである。羽子板は江戸時代までは、左義長(さぎちょう)の行事が描かれた「左義長羽子板」が主流だった。江戸期にはいると装飾性を増して、次第に豪華になり、胡粉(ごふん )で盛り上げ金箔も使うようになってくる。文化・文政期(1804〜1829年)頃には、役者絵や浮世絵などを、厚紙と布の間に綿を含ませてレリーフ状にした「押し絵羽子板」が出現し、現在にいたってはその豪華さはもはや芸術品である。       

※注 ◇左義長・・・ 小正月15日(14〜16日の間)の未明に、門松やしめ縄などを焼く行事で「とんど焼き」とか「どんど焼き」などともいい、現代でも行われている地方がかなりある。もともとは宮中の行事である。宮中では、木の玉を杖で打って競う毬杖(ぎっちょう )という遊びに使われた古い杖を3本に組み、ここで扇や短冊などを焼き、悪魔払いをした。これを三毬杖(さんぎっちょう )と呼び、のちに左義長となった。