花売り娘

 この作品は享保14年(1729年)から宝暦元年(1751年)に活 躍した二代目鳥居清信描いた、「中村喜代三郎の花うりおきよ」の浮世絵 をもとに制作した。歌舞伎の舞台で演じられるのは、若い娘が花売りに身 をやつした姿である。現実の花売りは、おばあさんもいたがほとんどが男 で、大きな竹籠や四角い竹籠を二、三段にして、天秤棒で担って売り歩く。 おばあさんは筵(むしろ)に花をくるみ、小わきに抱えるスタイルとなる。 活け花用の花はごくわずかで、おもに仏壇にお供えするものを売った。江 戸では四当銭(四文銭)を使うので、花の値段も四文から、高いのは六四文くらいまであり、すべて四の倍数となる。

 初代中村喜代三郎が演じるのは、寛延三年(一七五〇年)に市村座顔見 世の『帰陣太平記』で、大谷広次が演じた大森彦七の姉、祇園のおきよと いわれている。おきよの衣装は緋色と松葉色の花菱文の着物で、外四つ輪 繋ぎに木瓜の紋を入れている。帯は石畳文様のだらり結び。着物が単衣で あることや、うちわを持っているので、季節は夏である。

 歌舞伎では、花売り、放し鳥売り、つきもち屋など、本来男の仕事を女 形が華奢に華やかな装いで、おもに舞踊に取り入れることが多く、現実と は大きくかけ離れる。また浮世絵でも、役者を物売りに仕立てた姿を描く というスタイルが、特に初期の浮世絵には多く見られておもしろい。