ぶら提灯

 江戸の夜は闇だ。月、星明かりが頼りになる。もっと辻々に立つ常夜灯 もあり、夜商いもする飯屋、煮売り酒屋などのあかりや、町家から洩れる ほのかなあかりで、歩みが思いのほか進むこともある。  しかし闇夜にはやっぱり、提灯は必携品であった。一般に使われたのが “ぶら提灯”。歩くたびにブラブラと揺れるところから、その名がついた ようだ。作品中の子どもが手にしているのも“ぶら提灯”、麻の葉文様の 提灯が揺れるのがおもしろくて夢中になり、ついつい歩くのも遅くなる。 母は子の歩みを気づかいながらも、かわいくてならない。  この子の髪形は、頭頂部の中央である百会に髪を丸く残す「芥子坊」。 当時は男女とも三歳までは丸坊主で、盆の窪にだけ髪を残す「権兵衛」や 「八兵衛」と呼ばれる髪形にすることが多かった。母親は髪を「三つ輪」 に結い、よろけ縞の単衣に、雲板文様の帯を締めている。