秋 草 の 娘


 江戸浮世

 「萩が花尾花葛花撫子の花女郎花また藤袴朝顔の花」と、山上憶良が詠ん
だ歌が『万葉集』に収められている。憶良はまた「秋の野に咲きたる花を指折
りかき数ふれば七種の花」とも詠んでいる。この七種が「秋の七草」で、「春の
七草」が食用の草を対象としているのに、秋は鑑賞用の草花になる。したがっ
て秋の七草の取り合せの美しさは、染色、工芸、絵画にと描かれる。

 「萩」は野山でもごくふつうに見られ、根や茎は頭痛やめまいに効果があると
いわれる。「尾花」は穂の出たススキのこと。雑司が谷の鬼子母神のススキの
みみずくは、浮世絵にも描かれる古くからのみやげもの。「葛」は全国どこの山
野にでもあり、根からは葛粉や風邪薬として今も一般的な葛根湯がとれる。「撫
子」は鮮やかなピンクの花を付けるので、色のpink は撫子に由来する。種は薬
用となり利尿や消炎剤となる。「女郎花」も秋草の代表格の黄色が鮮やかな花
で、これも根は利尿や消炎、膿を出す薬となる。「藤袴」は淡いピンクがかった
小さな花を付ける。「朝顔」は桔梗の古名で、根は痰切りや排膿薬として用いら
れる。


 この作品は、黒襟をかけた、藍鼠色に大柄の花と貝文様の振り袖に、段染の
麻の葉絞りの帯を、引き抜きに結んだ娘。手には、摘んで来たばかりの尾花と
桔梗。秋の花を供えて待つ今宵の月は、十七夜である。

 
江戸浮世